[医学] 愛撫の神経科学 (なぜ感じる?, どう触れると良い?)

医学
[本記事で学べること]
・「愛撫」とは何か
・触れ合いに関わる神経線維について
・「愛撫」に最適なスピードと力加減
・触れ合いと心の繋がりに関わる脳部位
・皮膚感覚についてもっと学ぶための書籍

こんにちは、SoftyStudyです。

皮膚感覚というのは、よく考えてみるととても複雑で興味深いものです。

同じように触れられたとしても、両親に触れられるのと、恋人に触れられるのと、見知らぬ人に触れられるのでは全然感覚が違いますよね?

そこで本記事では、人間関係に不可欠な「愛撫」に関する皮膚感覚について、神経科学的に解説したいと思います。

愛撫」と聞くとセクシャルな印象を抱きがちですが、「優しく、愛情を持って触れること」を全て「愛撫」と言います。読んで字の如くですね。

もちろん、性愛の場面での触れ合いも「愛撫」には含まれ、本記事ではその面でも大きく取り扱います。

セクシャルな内容はタブー視されがちですが、実際に生活を送る中で誰しもが気になるところであり、また正しく知ることが生活を豊かにすることにつながると思います。

パートナーとの関係に関する心理的な側面は多くの方が解説していらっしゃると思いますが、なかなか生理的な面を知る機会はないかと思いますので、ぜひ本記事で愛撫の神経について学んでいただいて、パートナーとの生活をより一層豊かにしていただけると嬉しいです!

※本記事は「触れることの科学 なぜ感じるのか どう感じるのか(David J. Linden著)」を参考にしています。

愛撫の神経科学

「愛撫」とは何か

愛撫(caress)」とは、

撫でさすっていつくしむこと」(大辞泉)
いつくしんで撫で、さすること」(明鏡国語辞典)
愛情表現として撫でたりさすったりすること」(新明解国語辞典)
to touch sb/sth gently, especially in a sexual way or in a way that shows affection.(特に性的な場面や愛情を示す場面において誰かに優しく触れること)」(Oxford Advanced Learner's Dictionary)

というように定義されています。

とにかく「誰かに対して愛情を持って優しく触れること」を意味します。

親が子どもの頭をなでなでしてあげるのも、恋人の頭をなでなでしてあげるのも、また性的な場面で触れ合い愛情を表現するのも全て「愛撫」です。

「愛撫」されると心地よく、安心感に包まれますよね。これはなぜでしょうか?

また性的な場面での愛撫は「気持ちよさ」まで感じますね。これもなぜでしょうか?

なぜ「優しく」「ゆっくり」撫でられると気持ち良いのか

「愛撫」と聞いて、粗雑にわしゃわしゃと触りまくる場面を想像する方は少ないでしょう。

あなたもきっと優しくゆっくり」と触る場面を思い浮かべながらここまで読み進めてくださったのだろうと思います。

実際、粗雑にわしゃわしゃと触られても「気持ちよさ」は感じませんが、優しくゆっくりと、触れるか触れないかくらいの距離感で触れられる(フェザータッチ)と「気持ちよさ」を感じるというのはあなたも経験したことがあることでしょう。

これは愛撫を感じとる神経が深く関わっています。

皮膚感覚を伝える神経線維について

速いA線維と遅いC線維

皮膚感覚というのは本当に多種多様で複雑です。

温感、冷感、痛み、触覚、圧感覚、振動感覚などなど、皮膚が感じとる感覚は他にもたくさんあります。

そのそれぞれに対して、さまざまな神経線維が関わっているわけですが、今回は「愛撫」を感じる感覚に着目し、A線維C線維という神経線維を見ていきます。

A線維は太い軸索をもつ神経線維です。
これはこの太い軸索とこれを包む鞘のおかげで、情報を瞬時に伝導することができます。
その速度はなんと時速200km〜400kmほど!

一方でC線維というのはA線維よりも細く、また鞘に包まれてもいません
よってC線維は情報の伝導が遅い神経線維です。
伝導速度は約時速3kmほど、、、。

ではそれぞれA線維とC線維はどのような働きをになっているのでしょうか。

速いA線維の働き

伝導速度の速いA線維はさらにAα線維、Aβ線維、Aδ線維の3つに分けられます。

それぞれの働きは細かい知識なのでここでは割愛しますね、もし興味がある方は参考文献の「触れることの科学」をお読みください!

さて、大まかにいうと、このA線維は「素早く知覚するべき感覚」を伝えます。

例えば、あなたは目をつぶって腕を振り回したとしても、自分の腕が空間のどのあたりに位置するか割と正確に知覚することができますよね?

このように自分の筋肉の収縮具合を感知し、体が空間のどのあたりに位置しているかという感覚は「固有受容覚」と言いますが、この感覚を伝えるのはA線維です。

自分の体がどのあたりに位置しているかの感覚にタイムラグが生じると、怪我などにも繋がり生命に危険が及びますね。
だからこそ、この固有受容覚は速いA線維が情報伝達を担っているというわけです。

他にも、今、腕を強くビンタしてみてください。

ビンタした瞬間に鋭い痛みを感じますよね?
その「鋭い痛み」を情報伝達しているのもA線維です。
温度も同じで、とても熱いものやとても冷たいものに触れると瞬時に熱さや冷たさを感じて手を引っ込めてしまいますよね?
この瞬間的な熱さ・冷たさの近くもA線維がになっています。

これらも、強い痛みや温度を感じるような場面は生命に危険が及びますから、素早く知覚し逃げた方がいいですよね。

このように、素早い行動が必要になるような感覚をA線維は担っています

遅いC線維の働き

では、遅いC線維はどのような働きを持つのでしょうか。

先程のA線維の説明のところで自分の腕をビンタしてみたあなたは、ビンタした瞬間はA線維による強い痛みを感じたでしょうが、今はどうでしょうか?

ビンタした部分がジンジンと痛むのではないでしょうか?

この後からくるジンジンとした鈍痛を伝えるのがC線維です。

愛撫の感覚を伝えるのはC線維

このようにC線維はゆっくりと感覚を伝える神経線維であり、その特徴から、時間をかけて情報を統合して伝えることもできるということがわかっています。

実は接触に対する感情的な雰囲気(「気持ち良い触覚」「気分の悪い触覚」など)を伝えるのもこのC線維だと言われています。

そして、今回のテーマである「愛撫」の感覚を伝えるのもこのC線維なのです!

強い力でガシガシと触れられると主にA線維が働いてしまい、C線維の働きが隠れてしまいます。

一方で、触れるか触れないかの優しいタッチゆっくりと触れられるとA線維ではなくC線維が働き、その触覚を伝えるので愛撫を感じることができるのです。

さらにこの時、C線維は時間をかけて、その場の雰囲気などと触覚を統合しつつ情報を伝えるので、愛情や心地よさ、さらには気持ちよさを感じることができるというわけですね。

C線維は体のどこに分布しているか

さて、愛撫を感じる神経は遅いC線維であるということがわかったところで、そのC線維は体のどこに分布しているのでしょうか?

それを知れば、その部分に対して愛撫することで気持ちよさを引き出すことができますね。

C線維は毛が生えている皮膚のその毛の根本の部分(「毛包」という部分)に分布しているということがわかっています。

ちなみに、速い線維であるA線維もこの毛包部分に分布しており、C線維とA線維は綺麗に整列しています。

つまり、C線維が分布しているところにはA線維も分布しているので、強く荒く触れてしまうとA線維が働いて気持ちよさを感じることができなくなるというわけなんですね。

A線維が強く反応しすぎないように、優しくゆっくり触れてC線維を刺激することが気持ちよさに繋がります

ではどれくらいのスピードで、そしてどのくらいの力加減で触れるのが良いのでしょうか?


ちなみに、性的な快楽と結びつく部分と聞いて真っ直ぐに思い浮かぶのは男女ともに生殖器の先端(「亀頭」という部分)ですよね?

しかしこの部分はご存知の通り、毛は生えていません。

つまり、この生殖器の先端部分は愛撫しても感じることはないということになります。

じゃあ、「あの性感はなんで感じるの?」というと、実は別の神経(「陰部神経」と言います)が関わっているんですね。

この話は愛撫とはまた別なので今回は割愛させていただきます。
詳しくは参考文献へ。

どのくらいのスピード・どのくらいの力で触れると良いのか

まず愛撫の理想的なスピードですが、C線維は秒速3cm〜10cmの速さで触れられた時に最も反応するということがわかっています。

よって、「優しくゆっくり触れる」の「ゆっくり」は具体的には秒速3cm〜10cmの速度ということですね。

3cmというと大体指2〜3本くらい。10cmというと大体手のひらくらいの大きさです。

よって1秒間に指2〜3本くらいの速度で撫でるのが良いということですね。

予想以上にゆっくりなのではないでしょうか。

では次に力加減に関してです。

先述の通り、C線維は毛の根本の部分に分布していますがここにはA線維も分布しています。

このA線維の反応をできるだけ小さくし、かつC線維を刺激する必要があるので、「産毛を軽く撫でるくらい」のイメージの力加減で撫でるのが良いでしょう。

別の言い方をすると「皮膚に触れるか触れないか」くらいの力加減です。

これも予想以上に「優しい」のではないでしょうか。

まとめると、より気持ちよさを感じてもらうためには

「1秒間に指2本分くらいの速度かつ産毛を撫でるようなイメージ」で触れる

のが良いということです!

単にゆっくり触られるのと愛撫とでは違う

さて、ここまで愛撫に関わる神経について学んできましたが、冒頭でも言及した通り、誰に触られるかによっても感じ方が異なります

単にゆっくり触られるだけなのと、恋人などのパートナーに、然るべき場面で優しく触れられるのとでは感覚が異なるのです。

また、同じパートナーに触れられるのだとしても、普通に触れられるより優しく撫でられた時の方が愛情を感じますよね。

この違いはどこから生まれてくるのでしょうか?

愛撫で活性化する脳部位 : 島皮質

主に、皮膚感覚というのは脳の中の「体性感覚野」という部分に伝えられます

この体性感覚野に情報を入力するのがA線維です。

では、C線維が伝える情報は脳のどこに入力するのでしょうか

その答えは「島皮質」です。

実はC線維は、触覚を体性感覚野ではなく、島皮質という部分に情報を伝えるということがわかっています。

そしてこのことが、C線維が愛撫を知覚し愛情を感じる神経であることと深く関係しています。

島皮質の役割

島皮質社会的情動や共感などと深い関わりのある脳部位です。

例えば、自分の子供の写真を見せたり、恋人の顔を見せたりするとこの島皮質が活発に反応するということがわかっています。

さらに、他人の情動を模倣させた時(悲しい様子の人を見て、自分も同様の行動を取る)も、この島皮質が反応するということがわかっています。

さらに、この島皮質社会的痛みというものの知覚にも関わっています。

例えば仲間外れにされた時や恋人と別れた時、私たちはしばしば「心が痛い」と表現しますよね?

これは実際に痛みを生じるということがわかっていて、仲間外れにされたり、恋人と別れたりするとこの島皮質が強く働くということが観察されているのです。

触れ合いが繋がりを生む

さて、島皮質は社会的情動や共感など、社会性に関わる働きをもつということがわかりました。

そして、愛撫を知覚するC線維は、触れられている感覚を島皮質に伝えるということもわかりました。

このことからわかるように、C線維を伝わって島皮質に入力された愛撫の感覚は、島皮質の中で社会的な意味を持って処理されることで、その感覚を与えてくれた相手に対して愛着を形成したり、愛情を感じたり、ひいては気持ちよさを感じたりするようになるということです。

またC線維は遅い神経ですから、この気持ちよさはゆっくりと現れます

時間をかけて、優しくゆっくりと撫で触れることが愛情表現につながるというのが、神経レベルで納得できましたね!

このC線維による愛撫の知覚は、成長の初期段階、つまり子供の頃には親や家族との愛着の形成に役立っていると考えられています。

さらにその後の恋人との愛着や愛情形成においても、このC線維による愛撫の知覚が関わっていますね。

家族とも、恋人とも、ゆっくりと時間をかけて触れ合うことが愛着や愛情表現には重要です。

恋人との触れ合いをなおざりにしたり、ラブタイムを粗雑にそそくさと事を進めようとするのが関係の維持を妨げてしまうのも納得できるのではないでしょうか。

「愛」というのは神経の観点から見ても、ゆっくり時間をかけて育てるものなんですね。

(おまけ)人間以外にも愛撫をする動物はたくさんいる

おまけの話として、実は「愛撫」を行う動物、つまり触れ合いにより愛情表現を行う動物は人間以外にも多数存在します。

例えばチンパンジーは挨拶や謝罪の場面でキスをすることが知られています。

さらにボノボというサルは挨拶や喧嘩をした時の仲直りの意味でお互いの性器を触り合うことが観察されています。さらにボノボは性行為中にお互いの性器を触ったり、またキスをしたりするということまで観察されています。
もはや人間みたいですね!

サル以外にも、他後えばイヌやネコでも愛撫は確認されています。

親が子に対して行う毛繕いがその好例です。

ちなみに、ネコはなかなか面白いんですよ。

猫は子供の時、親猫が首元を咥えて持ち上げ、移動します。
親に咥えられて移動させられる時は、子猫は大人しく、従順になります。
このことが子猫時代に刷り込まれるので、実は子猫は首元を優しく摘んであげると大人しくなります。
さらに交尾の際には、オス猫はメス猫の首元を優しく噛みます。
これによりメス猫はおとなしく、従順になり、交尾に及ぶというわけです。

他にも鳥類でも毛繕いを含めて触れ合いによる愛情表現がたくさんあります。

ヒトに限らず多くの動物は触れ合いにより愛情を育んでいるんですね。

最後に

愛撫にかかわる神経についていくつか紹介させていただきました。

まだまだ皮膚感覚はわからないことも多く、研究が盛んな分野ではありますが、私たちの感覚がどのように生まれているのかというのは学んでいて面白いですね。

本記事で取り上げた愛撫の神経科学の知識を利用して、パートナーへの愛情表現や愛着形成をより豊かにしていただければ幸いです。

要点整理

[要点整理]
・皮膚感覚を伝える神経の中にA線維とC線維が存在する
・A線維は速い情報伝達、C線維は遅い情報伝達を行う
・C線維は毛包(毛の根本)に分布する
・C線維は愛撫を知覚し気持ちよさを感じる神経である
・気持ちよさを感じるには秒速3cmで、触れるか触れないかほどの力で撫でるのが良い
・C線維は島皮質に情報を伝え、愛着や愛情形成に関わる
・ヒト以外にも愛撫により愛情表現を行う動物は多数存在する

皮膚感覚の不思議をさらに学びたいあなたへ

参考文献&オススメ書籍

触れることの科学 なぜ感じるのか どう感じるのか (David J. Linden)

この本の第3章「愛撫のセンサー」の部分に、愛撫に関する皮膚感覚の科学について詳しく書かれていますので、愛撫についてより詳しく学びたい方はぜひお読みください!
また他にも「社会性の構築に関する皮膚感覚」や「セクシュアルタッチに関する皮膚科学」などなど、「触覚」をテーマに面白い話がたくさんあるので、ぜひ読んでみてほしい一冊です!

 

快感回路 (David J. Linden)

参考文献

  1. 触れることの科学 なぜ感じるのか どう感じるのか (David J. Linden著)
  2. Wikipedia, 「愛撫」, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E6%92%AB, (参照 2021-05-16)
  3. 脳科学辞典, 「島」, https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B3%B6, (参照 2021-05-16)

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