最近、コロナウイルスの検査として、よくPCRという言葉を聞きますよね。
普通にこの言葉をニュースやワイドショーなんかで大量に聞くので、もう結構なじみのある言葉になってきているのではないでしょうか。
だからもうあまり気にはなっていないかもしれないですが、実際、どうですか?
このPCRって何なのかご存じですか?
知らない言葉をただただ聞いていると不安感も増大するでしょう。
しかも、こういう時は情報を正しく判断して受け取らないと、デマに騙されるようになってしまいます。
自分の身を守るためにも、使われている言葉の正しい知識を持つことが大切です。
なので今回はPCRとは何なのかについて簡単に解説したいと思います。
※このページでは、生物学になじみのない方に向けて、PCR法を簡単に説明するので、厳密な原理にまでは触れていません
遺伝子の複製のメカニズム
PCR法というのは遺伝子を大量に複製する技術のことです。
なので、PCRそのものの説明の前に、まずは遺伝子の複製のメカニズムについて概説します!
(※ここでは直観的に理解しやすいように「遺伝子」という言葉を使っていますが、実際に複製される実体はDNAやRNAなどの核酸です。核酸が複製されることで、それにコードされている遺伝子が複製されるというわけです。まあここはあまり難しく考えなくて大丈夫です。)
ヒトの遺伝子は、2本のDNA鎖がそれぞれ引っ付いてできた螺旋状の構造により決められています。
この構造を以降では「二重螺旋構造」と呼ぶことにしますね。
この、DNAの二重螺旋構造ですが、4種類の「塩基」というパーツからできています。
この4つのパーツというのはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4つです。
そして、塩基には「相補性」という性質があります。
これは何かというと、AはTとのみ、GはCとのみペアを作って結合するという性質です。
つまり、例えばAとGなどの組み合わせでは引っ付かないということです。
イメージは以下の図のような感じです。
さて、遺伝子を複製するには、この二重螺旋構造のコピーをもう一組作ればよいですよね。
では、どのようしてコピーを作るのかという話に移ります。
まずは、材料です。
材料は、新しいものを作るための塩基4種類、塩基をつないで鎖を伸ばしていくための酵素(ポリメラーゼ)、最初の端の一部分に対応するDNA鎖の切れ端(プライマー)、他に二重鎖が絡まったりしないように複製を円滑化する各種の酵素です。
この各種の酵素については今回は割愛しておきますね。
次に手順です。
①まず、二重鎖をつないでいる結合(水素結合といいます)を切って、一本鎖の形にします。これは「各種の酵素」に含まれるものが担当しますが、この結合は熱に弱いので、高温にすることで一本鎖にすることが可能です。
②次に、一本鎖の端に相補的に結合する切れ端であるプライマーを引っ付けます。
③最後に、このプライマーから、どんどん塩基をつないでいって鎖を延長していきます(この延長するのがポリメラーゼです)
このイメージを図にすると以下の感じ(笑)
これで、もともと一つだった二重螺旋構造が二つになるのがわかると思います。
体の中の各細胞では、こんな風にして遺伝子のコピーを作ってから細胞分裂をしているんですね。
さて、次はいよいよPCR法についてです。
PCR法の原理
ここまでのような遺伝子複製のメカニズムがわかったところで、「この方法を人工的に利用すれば、目標とする遺伝子を人工的に増大させることができるのではないか」と考えられますよね。
それを実現させたのがPCR法です!
PCRというのは(Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ チェイン リアクション))の略です。
ポリメラーゼは既に学んだ「塩基を伸長する酵素」ですね。
これを使って連鎖(chain)反応(reaction)を起こし、遺伝子増幅をする方法という意味でこう呼ばれています。
さて、言葉の定義をしたところで、その原理について解説していきます。
材料は、4種類の塩基、耐熱性ポリメラーゼ、目標遺伝子に対するプライマー、目標遺伝子の乗っているDNA、その他、です。
これらをサーマルサイクラーという機械に入れることで、自動的に遺伝子複製がなされます。
サーマルサイクラーは、
約90℃→約60℃→約70℃
というように温度をサイクルさせる機械です。
まず、約90℃の時に、二重らせん構造の結合を切って、一本鎖にします(二重らせんの結合は高温に弱かったですよね!)
次に、約60℃の時に、対応するプライマーが各1本鎖に結合します。
最後に、約70℃の時に、耐熱性ポリメラーゼの働きで、新しい鎖が伸長していきます
これを何度も何度もサイクルすることで、遺伝子を指数関数的に増加させることができるのです!
PCR検査って?
さて、ここまでで、PCR法とはどのようなものか、大まかなイメージをつかむことができたと思います。
じゃあ、PCR検査とは何をしているのかというと、このPCR法を利用して、体内にウイルスや菌のDNAがあるかないかを検査しているというものです。
遺伝子そのものをターゲットとしているので、症状の有無は関係ありません。
体内に病原体が存在すればよいということになります。
ただ、遺伝子の増幅には一定の時間がかかるので、検査としてはあまり迅速ではないという欠点があるようですね。
ちなみに、最近、迅速診断キットなるものも登場してきていますが、この多くは抗体をターゲットとしているもので、遺伝子をターゲットとしているPCR法とはそもそも観測しているものが異なります。
抗体は、病原体が体内に侵入してきた後、体内の免疫細胞が体を守るために産生する物質なので、病原体が体に入っていてからある程度の期間がたたないと検査することはできません。
まとめ
いかがでしたか?
少しややこしかったかもしれませんが、大まかにPCR法というのがどのような方法なのかのイメージを掴めたかと思います。
言葉の意味を知ったうえで情報を受け取るのとそうでないのでは、判断の仕方が大きく異なると思います。
非常事態には、デマなどを流す輩もいます。
でも、それに流されて痛い目を見たら、、その責任は騙された側にもあります。
認めたくないですが、「騙されるほうが悪い」というのはある意味で正しいです。
だからこそ、正しい知識を身に着けて、情報について考察できるようになっておくことが重要です。
これからもこうした知識をシェアしていきますから、ぜひ参考にしていただいて、嘘に騙されないように気を付けてください!
追記(2020/8/8)
ポビドンヨードが新型コロナウイルスに有効なのではないか、という話が世間を賑わせています。
ヨードを含んだうがい薬でうがいをするとPCRの陽性率が下がるというお話しでしたね。
これに関しても、PCR法とは何かを知ったみなさんなら、より批判的な味方をすることができるのではないでしょうか?
例えば、「ヨードが唾液中に分泌されたコロナウイルスのDNA鎖を分解してしまったがために陰性となりやすくなっただけなのではないか」というような疑問が湧きやすくなると思います。
こうして反例を思い浮かべられると、すぐに買い占めに走るなどの安直な行動には出にくくなるはずです。
一応申し上げておきますが、現段階でこのヨードが新型コロナウイルスの重症化予防につながるかどうかはわかりません。
うがいをすること自体は予防につながるでしょうが、ヨードを含んだうがい薬でうがいをしすぎると粘膜が傷害を受け、より感染症にかかりやすくなるという研究もあります。
用法用量を守ることはもちろんのこと、新しい情報に対しては批判的な目線を持つことが大切ですね。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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